(エレーヌ・グルナック こんなこと13)
駿河 昌樹
(Masaki SURUGA)
Youtubeで、偶然、「あなたの知らない世界」の録画を見つけた。
かつて日本テレビの昼番組《おもいっきりテレビ》で、夏のお盆の頃などに放映されていた心霊特集だ。視聴者から寄せられた心霊体験を再現ドラマにし、放送作家で日本心霊科学協会理事だった新倉イワオ氏が解説していて、単なる怖がらせ番組とは違う、人間味のある、倫理的でもある怪談が楽しかった。
エレーヌはこの番組が大好きだった。
夏休みのお盆の頃の昼間に放送されるので、ふたりとも家にいることが多く、新聞やテレビ雑誌で時間を確かめておいて、この番組は欠かさず見た。だいたい3編ほどで50分程度、コマーシャルや解説を除けば、30分程度の心霊体験の再現ドラマ集だったが、昼の12時から12時50分ほどまでの時間は、不思議な物語にふたりして引き込まれて、真夏の家の中が静まり返るのを感じたものだった。
単なる恐怖体験程度の再現ドラマも多かったが、なかにはお話として名作とも言えるような心霊体験もあり、見終わって昼の食事を作ったり、夕方の散歩にいっしょに出たりする時に、いろいろと話題にし続けたものだった。
私も大好きだったが、こうした心霊体験を聞いたり、見たりするのを、エレーヌは本当に好んだ。多くの人が、エレーヌは文学を好んだとか、哲学を好んだとか、物理学の相対性理論や素粒子論の話を好んだとか、あるいは映画やバレエを好んだとか、いろいろな印象を持っているようだが、彼女がなによりも好んだのは霊界やお化け話や異次元の話や、超常現象、オカルトなどで、いまで言えば、スピリチュアル系の話ということになるだろう。
そういった方面について格段の好奇心を持っていない人と本当に打ち解けることは、エレーヌにおいては、まずなかったと言っていい。もちろん、お化け話や超常現象の話を、なんでもすべて信じ込むというわけではなかったが、それらを頭ごなしに否定したり馬鹿にする人たちに親しむことは、絶対になかった。人間的によくても、超常的なことを否定する人は「頭が固い人」ということになり、ある線以上に踏み込もうとはしなかった。
心霊にまつわる話は、ほとんどの場合、死んだ者たちからのなんらかのアプローチを受けとめて、彼らと接触し、彼らの思いを理解する話である。
懐かしい番組の録画を偶然見つけたこと自体が、私には、エレーヌからのアプローチのように感じられる。
死後の世界への常軌を逸した関心を示し続けたエレーヌは、2010年以降は自ら死後の世界に行ってしまっているわけだが、この「あなたの知らない世界」を見直したら、むこうの世界にいる身として、どんな感慨を持つだろうか。
数編を見直してみたが、新倉イワオ氏の解説も、当時の番組の雰囲気も懐かしかった。
なによりも、それらを見ていたあの頃の、真夏の昼の雰囲気が今もそのまま広がってくるようで、日本の夏の昼間の、暑く、奇妙に静かな時間が、青空や、滲み出る汗や、遠く近くの蝉の声とともに一気に蘇ってくる。
エレーヌがいっしょに見れば、やはり同じように懐かしく、たっぷりとくり返し経験したニッポンの夏を懐かしく思うに違いない。
参考までに、「あなたの知らない世界」のいくつかのリンクを載せておこうと思う。
https://www.youtube.com/watch?v=UFAB8SAwjPk
https://www.youtube.com/watch?v=RoqO0iijfJA
https://www.youtube.com/watch?v=Uwfg9XIF6pw
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