駿河昌樹
(Masaki SURUGA)
大学に通うためにパリに出てからは、エレーヌは生涯を通じて、複数の霊能者や霊媒師、占い師たちと交流を続けた。
神秘主義やオカルトへの興味のきわめて強かった彼女は、みずから進んで、さまざまな神秘主義系の書店を訪れ、また、人づてに聞いた霊能者や霊媒師たちを訪ねた。
彼らから得られる情報のすべてをエレーヌが信じたとは思われない。しかし、自分の過去世での生まれ変わりがどうだったかに熾烈な関心を持っていたので、さまざまな霊能者たちの視点からこれを見てもらい、複合的に再認識しようとしていた。
彼女の手紙類の中に残された一部、1977年頃からのものを資料として掲げておく。
これは、19世紀の有名な霊能者アラン・カルデックAlain Kardec*が、レイマリP.G.Leymarie**と設立したオカルト系を扱う小出版社兼書店の、1970年代の女性店主との文通の一部である。レイマリ夫人Madame Leymarieという人で、カルデックとともに出版社を創った人物の子孫か、子孫の妻らしいのがわかる。(Leymarieは、レイマリと呼ぶのかレマリと呼ぶのかわからないが、それに近い呼び名と思われる)。
サン=ジャック通りにあるこの書店には、私は1980年代か90年代にエレーヌと寄ったことがあるが、その時も、この文通相手の女性店主が居たかどうか、覚えていない。
文面から見ると、エレーヌはこの人に過去世のリーディングや近い未来についての占いを頼んでいた。パリで会った時に聞くこともあったが、日本に留学後、ここに見られるような文通形態で過去世リーディングや占いを書き送ってもらっていた。
過去世のリーディングといっても、霊能者がすべてを一気に開示することは普通はない。読解は非常に困難で、霊能者の側の読解のしかたによって左右される事柄も多い。なんらかのテーマをきっかけとして、それによって引きずり出されてくる事柄を理性的に理解し翻訳しようとしていく作業となる。これらの手紙にも、断片的にエレーヌの過去世についてのリーディングが記されている。
霊能者たちから聞き出した過去世の出来事の数々を、エレーヌは私にほぼすべて語った。
たとえば、ふたりでフランスの地方を旅行しているさなか、長い列車での移動の間に、どの霊媒師はこう言った、他の霊能者はこう言った…というぐあいに、少しずつ、思い出すままに、私は、ひとりの霊体が今生でエレーヌの人生に辿りつくまでの物語を聞かされ続けた。
今でも忘れないが、エレーヌがたびたび語った、もっとも印象深い過去世は、核物理学者としての人生である。強力な核兵器の開発のさなか、エレーヌは実験に失敗し、核爆発を引き起こして失明し、大怪我をしたという。その時の衝撃がすさまじいかたちで魂に残り、エレーヌのそれ以後の転生を重いものにした。
また、どの時代かわからないが、古代エジプトでは重要な秘密を扱う任に就き、それを他言できないように、深い穴に生き埋めにされて殺された。
これらのエピソードは、神秘なものの好きなエレーヌという女性が、霊能者たちの話を膨らませて作り上げ、それによって自我を支えようとしていたファンタジーであるようにも私には思えていたが、エレーヌ自身の素粒子物理学好きや異常なほどのエジプト好きと合わせて考えると、それなりにリアルに思われたものだった。
いずれにしても、エレーヌ自身が、ほぼ100パーセント当たる占いの能力を持っていて、私は時々その恩恵に浴してもいたので、エレーヌの語る過去世のあれこれが嘘八百には思われなかった。
*https://fr.wikipedia.org/wiki/Allan_Kardec
**https://fr.wikipedia.org/wiki/Pierre-Ga%C3%ABtan_Leymarie
これは、上の手紙を、読みやすくするためにエレーヌがタイプライターで打ち直したもの。 |
これも、上の手紙をタイプライターで打ち直したもの。 |
Alain Kardec |
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