2016/10/30

慶応湘南藤沢キャンパスSFCで授業中のエレーヌ

 

 駿河 昌樹
 (Masaki SURUGA)


 エレーヌの命日を明日10月31日に控えて、今日はすこし珍しい写真を載せておこうと思う。
 たぶん、1990年前後の頃と思うが、 大学教員としてのエレーヌを、授業中、教室の中で撮影した写真である。
 場所はSFCこと、慶応大学湘南藤沢キャンパス。
 エレーヌはこのキャンパスの立ち上げ時から教えることになり、亡くなる年まで約20年間ほど関わり続けた。最後の2010年は病気で教壇に立つことができなくなったが、2009年までは教え続けた。
 キャンパスのパンフレットを作る一環として撮られたのか、それとも学生が記念に撮ったものか、今となってはわからないが、これらの写真は無造作に封筒に入れられ、エレーヌの押入れの手紙類の箱の中に仕舞われていた。
 私は個人的には、教師としてのエレーヌを知らないが、これらの写真からは、生き生きと楽しそうに学生たちに対しているエレーヌの姿が蘇ってくる。彼女は、人と接する時にユーモアや冗談を交ぜるのが好きだったし、堅苦しい関わり方を好まなかったので、学習意欲のある大方の学生たちにとっては、楽しい先生だったことだろう。

 もっとも、やる気のない学生や失礼な学生に対しては、かなり手厳しかった。遅刻して平然と入ってくる学生や、課題をやって来ていない学生、学ぶ態度のなっていない学生などは、教室から追い出したことも多かったらしい。
 はっきりしない声で、小さくボソボソと返答する学生も大嫌いだった。これはフランス人一般に共通するが、わかるならわかる、わからないならわからない、とはっきり言うのは最低限の礼儀だと、エレーヌは言っていた。日本を愛したエレーヌだが、日本人のこういうところは本当に嫌だ、とよく言っていた。

 ある時期から、日本の大学生がひどくなり過ぎてきた、と嘆くようになった。毎日のように、怒って帰ってくる。レベルの高い大学でさえ、以前より悪くなってきた、とエレーヌは感じていた。
 あまり怒るのをやめたほうがいい、と私は勧めた。ちょっと態度が悪かったり、やる気がなさそうだったりしても、扱いを少し緩くして、楽しい授業にしたほうがいい、そんな時代になってきたように感じる、と彼女に言った。
 私の勧めに従ったばかりでもなかろうが、それからのエレーヌは、グッと和やかに授業をやるようになったらしい。「学生を、あまり怒ってばかりいてもダメです」と自分から言うようになったから、自分なりの新たな方法を見出しつつあったのだろう。

 この写真の頃のエレーヌは、まだ“怖い先生”だった時代ではないか、と思う。それが、こんなに和やかにやっているのだから、よい学生たちが集まっていた時代なのだろう。SFCからは起業家などが多く出て、その点、日本中の全大学・全学部の中でもダントツだと言われるが、この写真に写っている学生たちにも、今は各方面で活躍中の人たちが多いに違いない。
 たぶん、写真が撮られてから、25年ほどが経っている。写っている学生たちも、今はすでに40代半ばなのではないか。彼らは、生き生きした、ユーモアのある、怖くもあった「エレーヌ先生」「グルナック先生」「エレーヌさん」を、まだ覚えているだろうか。偶然、このブログを目にして、「これは、あの時の…」と思ってくれたりすることもあるだろうか。
 
 写っている方々の許可を取って載せるべきなのだが、なにぶん25年ほど前のもので、今では御本人の雰囲気も容貌も変わっている場合が殆どと考え、さほど支障はないと判断して、とりあえずは掲載させていただいた。ここに写っている方で、お気づきの点がある場合は、ぜひお知らせいただきたい。 
 
 なお、なにぶんデジタルカメラのない時代のものなので、残っているプリント写真をデジカメで撮り直して、ここには掲載している。そのため、もともとピントが少し甘く撮影されていたこれらの写真は、いっそう鮮明さを欠くことになったが、これは致し方ないと思う他ない。
 





















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